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どうせだめならやってみよう


YOUの態度はオフサイド
by child-of-children
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何と引き換えに 現在を手にした?

「I have a dream」。
誰もが一度はこの言葉を耳にしたことがあるであろう。黒人差別撤廃に大きく貢献したキング牧師が遺した、とても偉大な言葉だ。
彼は、白人が圧倒的地位を誇っていた時代のアメリカで、平等を説いていた。
当時アメリカ社会で人種差別撤廃を訴えることは命がけであった。しかし、彼はその現実に立ち向かった。
「聖書の約束する死後の世界、人生の山頂である『天国』を見てきた」と彼は演説で語っている。

「約束の地」がある。
死んで終わりではない。死をも恐れず、ひるまず、人種差別と対峙し続けた。

そして彼は死の直前にこのように語った。
「私は、神によって山頂に立つことを許された。
そして、そこから私は約束の地、プロミスト・ランドを見ることができた。私は、あなた方とともに“約束の地”に行くことはできない。
しかし、あなた方は必ずや“約束の地”にたどり着くことができるだろう」と。
「約束の地」とは、モーセがエジプトから、奴隷になっていたユダヤの民を助け出した時、彼らの住むための土地として神が与えた理想の土地のことである。
彼は、約束の地が見えていたのだ。

私は、彼の言う「約束の地」を、このように解釈したい。
「彼にとっては差別のない世界こそ、天国であったのだ」と。
そして、彼は同志たちがその地へたどり着くことを確信していた。

そしてその天国は形成された。

アメリカという、広大な大地に。

私は、キング牧師の言う約束の地へと降り立ち、生活をした。
人種差別はなくなったと私は勉強した。
しかし実際に自分の目を通して見たアメリカでは、キング牧師が忌み嫌ったものは、完全には消えず、いまだに息づいていると感じた。
キャンパスの近くにあるコンビニエンスストア、ファミリーレストラン、スーパーマーケット、キャンパス内のブックストア。
どこの店も、レジスターやウェイター、ウェイトレスは白人であった。
唯一、キャンパス内のカフェテリアで、店のシャツを着ている黒人の学生を見たが、彼は店の清掃などの要員のように思えた。
彼を見かけるのは、モップを片手に厨房に入る時か出てくる時のみであった。

これぞ、人種差別が遺した爪跡ではなかろうか。
確かに黒人の学生数自体少ないし、アルバイトの志願者も少ないのかもしれない。
しかしどこの店に行っても、オレゴン外の店に行っても、結局肌の黒いレジスターを見ることは一度たりともなかった。

この留学中、とあるきっかけで黒人の学生と話をした。
宿題として出されたちょっとしたアンケートについて答えてもらおうと思ったのだ。
挨拶をし、握手をする黄色い自分の手と黒い手。
異色の二つの手が繋がっているその光景を目にした時、聞きたい事が変わった。
少し他愛ない話をした後に、ドキドキしながらこう尋ねた。


「人種差別を受けたことはありますか?」


傷つけてしまい、気を悪くさせてしまうと思っていた。
しかし、彼は笑って答えてくれた。
「あぁ。あるよ。ハンバーガーが買えなかったこともある。携帯電話を買いに行ったら、店員に『お前にこれが扱えるのか?』とバカにされたこともある。ひどい話だよね。」と。

そして、私が人種差別について知りたがっているということを察して、彼はさらに話してくれた。

「この国では、人種差別はなくなっていないよ。上流社会に生きている人たちは皆白人だし、僕たちは何かと苦労する。何か悪いことをしたわけじゃない。だけど、僕たちは制限されている。」

アメリカを形作ってきた大きな「歴史」という力に翻弄されながらも、それでも明るく、強く生きている彼は、誰よりも立派な人間であると感じた。
ほんの数分であるが、彼からたくさんのことを学び、また彼は、人種差別はまだ残っていると証明してくれた。
 
日本人も、黒人に対してプラスのイメージを持っている人は少ない。
彼に出会う前は、私もそうであった。
黒人を見るだけで、少し恐怖感を覚えることさえもあった。
日本人が黒人に対してマイナスのイメージを持っているのは、遥か昔、鎖国の時代から根付いている単一民族性の現れであり、異文化と触れ合うことが少なかったことの結果であると、私は思うのだ。
そしてさらに、マス・メディアによって植えつけられたステレオタイプの影響とも言えるであろう。

問題点は、多くの人が、「知らない」ということだ。
教科書によって「知らされる」事実ではなくて、実際に肌で触れ「知る」現実を、皆が見つめ、考えなくてはならない。
誰か一人がその真実を知ったところで、個人によるところの力など本当に微々たる物だ。
しかし、現実を知っている個人が増え、考える人も増えていけば、やがてそれは運動という力になり、多少なりとも波紋を起こすことができるだろう。

3ヶ月の留学の中で学んだ一番大切なことは、17時間の時差の向こうで生きている友達が教えてくれた現実である。
その現実を知ることが、日本だけでなく、世界にとって必要なことだと私は思うのだ。


キング牧師が目指した、天の国を作るために。

by child-of-children | 2006-01-20 00:08 | LIFE
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